身土不二

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魚沼こしひかりの価格急騰はなぜ?

 魚沼こしひかりの入札価格が7000円も跳ね上がったというマスコミ報道が目につきます。一俵は60kgですから、10kg当り1000円以上の値上がりということになります。 何故こんなことが起きたのかと言えば、4月1日よりJAS法の改正(詳しくはhttp://www.maff.go.jp/soshiki/syokuhin/heya/jasindex.htm を参照)があったからです。お米に関しての改正ポイントは、大きくは2つです。

 1つは、等級検査を受けたお米かどうかによって、袋の表示が定められたのです。そもそもは、ニセ表示米の横行がその背景にありました。

 もう1つは、『有機』表示の問題です。この問題も紛らわしい表示や表現が氾濫して、混乱していた状況がその背景の1つにありました。(有機問題は、別の機会に書きます。)

 魚沼こしひかりの価格急騰問題は、1番目の問題にかかわっています。ニセ表示問題は、魚沼こしひかりだけに限ったことではないのですが、検査を受けたお米が入荷した事実がないと産地・品種・産年の三点セットの表示できなくなるのです。そこで、絶対量の不足する魚沼こしひかりは入荷実績つくりのアリバイ的需要が噴出してきたというわけです。

 元来、魚沼こしひかりが日本中のほとんどの米売り場(スーパー、デパート、米屋、さらにはディスカウント店や業務用飲食店にも)に一年中あるわけがないのですから。もたもたしていると入手が困難になる魚沼こしひかりに集中的に表れたわけなのです。4月から突然美味しくなるわけではないのに、また魚沼というだけで格別美味しいお米が入荷してくる確実な保証はないのに、価格が急騰したのは、入手実績のアリバイ的需要といっていいと思います。裏返して言えば、今まではインチキ魚沼が常態化していた証明でもあります。

 私が今後注目していきたいのは、この値上がりした魚沼こしひかりを購入する消費者がいるかどうかです。魚沼こしひかりを美味しいお米の代名詞として捉えるならば、いて欲しいと願うのですが・・・。ただ、正直なお米屋さん達の中には、「魚沼こしひかりは扱うのをあきらめた」という人も少なからずいるようです。なぜなら、精米した魚沼こしひかりを店頭に並べて、お客様を待っていても売れ行きが鈍ければ時間の経過とともに味落ちしていってしまうからです。やっと売れたときにはお客様をがっかりさせる結果になるということも予想されるからです。だから、魚沼と肩を並べることの出来る美味しいお米を購入していただけるお客様をそこそこ想定できる、もう少し安い価格帯で販売していこうということなのです。

 そのため、産地の魚沼でも強気と弱気が入り混じった困惑の表情を隠せないようです。今は嬉しいが魚沼離れがこの不況下で加速したらどうしようという心配もあるのです。つまり、農協の農家からの買取価格の設定は、売値を予想してなされるのですが、高値が維持しきれなかったら売れ残りを避けるために値下げしていくことになります。下手をすれば農協は赤字ということにもなりかねません。多少高くても美味しいお米を求めている人の数、購入できる所得層の厚さにかかっているのです。日本経済の混迷の中、予想はなかなか難しいのです。

これから大切なことは何か?

 一口で言えば、この今回の法改正はとても古い体質をそのままにしたものだと私は思います。 なぜなら、本当の問題点を広く消費者に問いかけるものになっていないからです。それは1つは、等級検査の限界についてなにもいっていないのです。2つ目は、表示のポイントを相変わらず三点セット(産地・品種・産年)などといっていることです。

 等級検査の限界とは、現在の外観検査では品種まではなかなか特定できないのが実情でしょう。まして、産地は判別できるものなのでしょうか?その限界のある検査をもって表示の適否の基準にしようというのですから、無理があるといわざるを得ません。等級検査パスというだけで本来判定できないものまでお墨付きをもらってしまうのですから、建て前に隠れてインチキが今後もおこなわれる可能性は大です。

 もう一つは、その等級検査パスを条件として、お米の表示を三点セットに求めていることです。産年はともかく、産地とは行政区分の名称であって、お米は田圃によって土質も水系も標高も小気候も異なるし、土作りや農法による手のかけ方などで、味も実に千差万別です。それを県名で1括りにしてしまうのはいかにも乱暴だし、結果的には、誤ったブランド信仰の中に消費者を押し留めようとするものになるのではないでしょうか。お米たちはじつに多様な表情をもっていて、食味は平均値で決まるものではないのです。 品種についても、等級検査で保証されるものでないのは前に述べたとおりです。

 ただ、消費者の方にはどうしてもこれだけは知っておいて欲しいことがあります。それは、食味のバラツキについてです。お米は工業製品ではありません、農産物であり生ものですから、入荷したお米によって味が変わることがあります。そこで、卸・小売を問わず米屋は、味のブレが大きすぎると消費者からの不信感が強くなるので、味の安定のために混米(ブレンド)技術でカバーするか、指定産地農協や農家との個別契約仕入れで味のブレが少なくなる工夫をしているのが実態です。個別契約することができず、卸からの仕入れだけで販売している小売は、入荷するごとに食味が安定しなくて困っているケースも珍しくありません。生真面目な小売店で、正直に入荷した米100%で、そのつど売っていたら、ブレに不信感を持たれてだんだんお客さんが減っていってしまったという話もあるのです。だから、今回の法改正での表示は、店によっては背負うことになるそのリスクを承知で求めているのかな?という疑問もあるのです。だから、消費者の方には、お米は毎日食べるものでもあるのですから、米屋さんとよくそのお米についてお話をしてから購入して食べて欲しいと思います。田圃で作った美味しい米を愉しんでいただきたいと同時に米屋さんの技であるブレンドの妙味を承知で愉しむのも面白いと思います。

 私は、個人とその農法やこだわり・工夫などの表示をとおしてお米から稲にそして土や水へとその作り手の人柄まで想いをひろげて御飯を楽しんで食する人がどんどん増えていって欲しいと願っています。魚沼に勝るとも劣らない良い味のお米があちこちにあることをもっと広く知らしめるべきです。それらが永年、魚沼こしひかりの代役を果たしてきたのですから。また、魚沼といっても南・中・北とありますし、年度ごと、地域ごと、農家ごと、田圃ごと、農法などによってそれぞれ食味のバラツキもあるのです。多くの人に個性的な表情をしたお米の食べ比べを自分の好みで愉しんで欲しいと思います。

 法を運用する人たちに大切なのは、法改正の狙いと初心を忘れないことだと思います。つまり、不当な安売りルートを排除することです。ブランド信仰を利用して、偽って安く見せかけて大量に売りさばいてきたのですから。売る側の魚沼をはじめとする銘柄米の袋に入れてしまえばいいという安易なズルイ対応の責めは免れません。農家の生活や再生産を脅かすような米価の低落は、根本的要因には米輸入問題があるにしても、流通段階でのインチキが消費者を欺き、安値感覚に染めてきたのは事実ですから。銘柄米の出来るはずのない価格での大量販売は、独禁法違反でもあるはずだし、この際、徹底的に取り締まり排除していただきたいと願います。

 農家・農協にお願いしたいのは、パクリ(詐欺)に遭わないようにしてして欲しいということです。タダの仕入れならどんな値段ででも売ることが出来るし、品物は本物ですから、消費者は誤った価格感覚をもってしまいますから。

2001年04月05日(木)

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